モノクローム
あの後、春からの手紙も出て来て、その封筒は擦り切れていた。

返事を書く機会はあったのに、未だに書けずに居る。
どうしようか暫く悩んで書店に向かい、文具コーナーで水色の便箋と封筒を買った。
青いペンも一緒に…


便箋を広げ、ペンを走らせる。



元気にしてますか?

体調崩してませんか?



そう書いた所でペンを置いた。

あの文字に、あの言葉にどう返していいか分からなかった。
それに、噂では文章が消される事もあると耳にしていたし、尚更言葉に戸惑ってしまう。


どう、伝えたら…


書いては丸め、捨てては書いて、それを繰り返す毎日。

職場に行っても話せそうな相手など居る訳もなく、結局、私は亜矢に電話をした。



「はろ」


「はろー」



変わらず亜矢の声は元気な様子。



「明日だね。結婚式」


「まぁ、式って言うよりお披露目だけどね」


「落ち着いたら改めて挙げなよ」


「うん。で?どうしたの?」


「うん…あのさ…好きな人に手紙を書く時って…亜矢ならどうする?」



受話器の向こうで亜矢は押し黙る。
テレビの音や彼らしき人の声がしていた。

暫く黙った後、亜矢は言った。



「私なら…シンプルに伝えたい事を書くな。好きなら好き、とかね。あ、ごめん…今、彼の両親が来てるから、またね」



「またね」と私が言う前に携帯は切れた。
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