モノクローム
まだ、その人とは話しもした事がないし、ましてや顔なんて一度も見た事がない。
知ってるのは凜とした後ろ姿だけ。

短い髪を耳に掛ける仕草に胸が鳴った。
それが始まりで、ずっと見てるばかりで声を掛けようか迷ってる。

こんな事を秋に言ったら、何て言うのかな…


でも俺は、その人に惹かれてる。
それだけは確かな事。



だから、今日はその人に話し掛けて見ようかと思う。

多分、「変な奴」と思われるのがオチだけど。




俺はタバコを携帯灰皿に入れ、屋根にビニールを掛けて梯子を降りた。
それから少しだけ前髪を整え、軽く作業服を払って公園に向かう。

すごく緊張して、喉から心臓が出てくるんじゃないかと思った。
そのうち変な汗まで出て来て、呼吸まで乱れ始めていた。


一旦そこで足を止めて深呼吸する。
視線の先には、はっきりと後ろ姿が見えている。
そんなに遠くないのに、なかなか足が前に出ない。


その人はまだ空を見上げている。




雲一つない

一点の曇りもない空に押されるように足を進め、意を決して声を掛けた…
< 94 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop