鬼りんご
異常

一方的

悩んだ顔してる、そう声をかけてきたのは隣のクラスの山吹修司だ。

休み時間は誰にも気づかうことなく人気の少ない廊下へ行く。

窓を開け、優しいそよ風を受けながら空を見上げるのが好き。


「悩んだ顔なんてしてないもん、雲の流れを研究している顔なの」

「はいはい強がり」

「強がりじゃないし!」


おだやかな表情を浮かべながら真横まで来ると、ポケットから湿布を取り出し、何の迷いもなく私のスカートをめくり上げた。

「やめて」と小さな声で叫ぶが手を止めてはくれない。

太ももの一部分が大きく腫れ上がり青紫色に変色しているのを見て、これはひどいね、許せないな、などつぶやく。

しかし、私は知っている。

傷つく私を見る修司の目は見たこともないような、うっとりとした目をしているのだ。

「痛い?」変色した部分を何度もさすりながら質問してくる。その瞳が輝いているのを自分では気付いていないのだろうか。


「湿布、貼るね。少し冷たいけどガマン」

「ガマンも何も早くして、お願い」


修司にスカートをめくり上げられている間、周囲を何度も見回す。

人の気配がないか、誰かが見ていないか。

湿布は全く冷たくなかった。

いつから湿布をポケットに忍ばせていたのか、なぜ彼は私の足が腫れている箇所を的確に知っているのか。

答えは簡単だ。

どこからか、こうなる行為を見ていたから。
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