鬼りんご
「優斗?何してんのあんた」


どこからか女の子の声がした途端、男子生徒の動きが止まった。まるで目が覚めたように、きょとんとした目で私の顔を見るなり、「うわあ!」と叫びながら後ろへ転がり落ちる。


「優斗!説明して!今日一緒に帰ろうって約束してたのに、何、なんで女子殴ってんの?!」

「知らねえよ!意味わかんねぇ、何だこれ!」

「しかもこの人ネクタイ黒、二年生じゃん!あんたバカでしょ!早く謝れ!」

「す、すみません!オレ、何をっ」

「優斗のバカがごめんなさい!このハンカチ使って下さい!」


紺色のネクタイを締める二人は一年生のようだ。

女子生徒は私の手にハンカチをにぎらせ、男子生徒は頭を地面につけてひたすら謝罪の言葉を並べてくる。

殴られた後だというのに少し微笑ましく思えた。


「あの、立てますか?私、保健室に行って先生を呼んできます!」

「大丈夫!こんなの平気だから。それより逃げるよ」


周囲にだいぶ人が集まってきている。

垂れてくる鼻血を手の甲で拭き取り、とまどう二人の手を引いてその場から逃げるように走った。

今の事態を見た誰かが教員を呼びに行ったかもしれない。

教員に見つかれば停学処分にされてしまう。

一年生になったばかりなのに、ピカピカの一年生なのに、私なんかのために泥を塗ってはダメだ。

校門から電信柱を五本分ほど過ぎた所で足を止め手を離した。

「ごめんね、急に走って」息を切らしながら二人に向かい合う。
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