鬼りんご
ハッとした。
先ほどまで茜色が広がっていた空は、真っ暗になっていた。
両目を開こうとするが、左目が開かない。
指先で頬を触ってみるとパンパンに腫れあがっていた。
やっかいなもので殴られると時間が経つたびに腫れてくる。
ベンチ横の街灯に集まる虫を見つめていると、カバンの中で携帯のバイブが鳴りだした。
慌てて取りだし画面を見れば修司からの着信だった。話す気になれず、鳴りやむまで放置した。
鳴りやんだ後、通常の待ち受け画面へ戻った所で目を見開く。
着信三十件、新着メール二十七件。
何事かと思うような件数が表示されていて笑いそうになった。
しかし、時計を見て背筋が凍ることとなる。
――九時五十二分。
九時?これはまずい。
ベンチでどれだけ寝ていたのか。
メールの内容は全て、今どこ、もう九時過ぎたよ、連絡して、など修司からのものだった。
着信履歴も全て修司。
電話をかけ直すことも忘れベンチから立ち上がり走った。
こういう時に限って足がもつれるもので案の定、こけた。
両ひざをすりむいてしまい、めくれた皮膚の下から血がにじみ出てくる。
殴られるよりも地味に痛い。
再び携帯が鳴りだす。電話に出ようとしたが、怒られるのではないかと怖くなり出なかった。
立ち止まっていられない、痛みを押さえ全速力で走った。