鬼りんご
夕飯を食べ終え洗い物をしていると、先に風呂へ入るよう言われたので、そうすることにした。

ヒザのすりむいた部分に水はけの良い絆創膏を貼り、服を脱いだ。

風呂へ入る時は、必ず内側からカギを閉める。でないと、安心できない。

今まで入浴中に扉を開けられたことは一度もないが、ほぼ毎日脱衣所まで入って来るのだ。

扉越しに、ねえ桃美、と名前を呼び、どうでもいい世間話しをして出て行く。

言っているそばから脱衣所の方で物音がした。

「ねえ、桃美」ほら、来た。


「ん?」

「今日さ、お箸ありがとう」

「ああ、いいよ。気にしないで」

「ヒザ、大丈夫?しみるでしょ」

「うん、しみる」

「……それじゃあ、ゆっくり温まってね」


それだけを言うと脱衣所から出て行った。

分からない。わざわざ扉越しにするような会話なのだろうか。

朝蹴られた太ももと、放課後殴られた頬、そしてすりむいたヒザのキズに気をつかいながら体を洗った。
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