鬼りんご
太ももの外側を冷やしていた手が、ゆっくりと内側に伸びてきた。

この状況はまずい、脳のどこかで瞬時にさとった。


「桃美は好きな人、いる?」

「好きな人?」

「そう」

「今は、いないかな」

「俺もいない。でも、大切な人はいる」


そこで太ももから手が離れた。

保冷剤が床へと落ちる。

ふわりと自分のではない髪が耳に触れ、背中に回る二本の腕。

包み込むように抱き締められた。

私は冷静に修司の胸板に両手を付き、胸が当たらないよう防ぐ。


「大切なんだよ、桃美が。だから、あまりひどいこと言うな。傷つく」

「そんなの、私も修司を大切に思ってるよ」

「そっか、ありがとう。こんなにお互い想いあっているのに法律って邪魔だよね」

「法律?」

「どうして兄妹は結婚しちゃいけないのかな。桃美もそう思うだろ?」


思いがけない言葉に心臓が大きく跳びはねた。
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