鬼りんご
「やっと来た」目的地に着くと、ヒラヒラと手を振る修司がいた。

「後一分来るのが遅かったら迎えに行く所だったよ」その言葉に私は、「ダメ、迎えには来ないで」はっきり言い返した。

修司から一メートルほど離れた場所に腰を下ろし、弁当をひざの上に乗せる。


「もっとこっちへおいでよ」

「いや、ほら、広く食べた方がいいかなと思って」


私の言葉の後、何かが落ちたような軽く高い音が響いた。

それが修司の箸であることはすぐに分かった。


「あーあ、何してるの。お箸洗ってきてあげようか?」

「いいよ、ここから水場まで距離あるし。桃美の箸使わせて」

「……うん、いいけど」


落ちた箸を仕舞い、肩が触れ合うほどの至近距離に腰を下ろしてきた。

箸を貸すだけなのに、ここまで近寄る必要があるのだろうか。


「ちょっと近すぎない?食べづらいよ」

「俺はこれぐらいがちょうどいいの。それより早く食べよ」

「じゃあ、はい。先に使っていいよ。私待ってるから」

「何言ってるのさ。食べさせて」


ストレートな修司の言葉に開いた口がふさがらなかった。

数秒後には、感情が怒りへと変わる。
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