鬼りんご
弁当を食べ終えた後はそのまま個室の中でぼうぜんと天井を見ていた。

私はこのまま友達が一人もできずに高校生活を終えるのだろうか。

次は誰に殴られるのだろうか。

いつまで修司に振り回され続けるのだろうか。

マイナスの悩みが脳を何重にも締め付ける。

――友達、欲しい、悩みを話せる友達が欲しいよ。

溜め息をつくとチャイムが鳴った。五時間目の予鈴だ。

居心地のよい個室を出て、教室へと向かう。

教室へ着くと、なぜか私の席に修司が座り、席を囲むように三人の女子生徒が笑顔を振りまいていた。

楽しそうに会話をする修司を見ると、私に見せつけているんだ、そうとしか思えなかった。

ドアの前で立ち尽くす私に気付くと席を立ち上がり、「桃美!」名前を呼びながらこちらへやって来た。

修司の声と同時に教室内の空気が変わる。

やめて、こっちに来ないで!と、心の中で何度も叫んだ。

「大変だったね、用事は終わった?」顔をのぞき込まれたので二歩後ろへ退き、目を合わさずにうなずいた。

ああ、痛い、痛い、最悪、この場から逃げ出したい。

修司と私が一緒にいると、数え切れない視線がこちらに集中するのだ。教室から、廊下から、視線を感じる。

双子同士の会話に興味があるのか、修司を好きな人がいるのか、友達のいない私が修司と話していることに疑問を抱いているのか、理由は分からない。

とにかく視線が突き刺さる。

修司は仕切りに話してくるが、全く耳に入ってこなかった。

耐えきれず修司の腕に肩をぶつけながら横を通り抜け、席へと着いた。

乱暴に次の授業の用意をし、机に突っ伏す。

「桃美?どうしたの、しんどい?」すかさず声をかけてきたのはもちろん修司。私の背中に手を置きながら。

「少し眠いだけ」突っ伏したまま低い声で答える。

「じゃあ、今日は早く寝ようね」そう耳元でつぶやくと、私の背中から手を離し足音が遠ざかっていった。

開放された、と気を抜く間もなく小さな声があちこちから聞こえてくる。

さっきのあの態度はないよね、修司くんと双子だなんて信じらんない、山吹くん可哀相、あんな態度してるから殴られるのよ、どうやら二年生も友達を作れそうになさそうだ。
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