鬼りんご

痛みよりも

放課後、掃除当番でない日は終礼が終わると一目散に下駄箱へ向かう。

教室を出た際に修司のクラスを見ると、ドアが閉じられ中から先生の声がしていた。

まだ終礼が終わっていないようだ。

心でガッツポーズをし、早足で階段を下りた。

手早く靴に履き替え校舎を飛び出し、五歩進んだその時。


「おーい、桃美!一緒に帰ろ!」


頭上から聞き慣れた声がふってきた。肩がビクリと飛び跳ねる。

おそるおそる見上げると、三階の窓から身を乗り出し手を振る修司がそこにいた。


「すぐ行くから待ってて!」

「ご、ごめん、用事あるから先に帰る!」


周囲にいた生徒の視線がこちらに向いているのを感じ取り、校門まで走った。

またウソをついてしまった。

咄嗟に出てくるウソなど、用事、しかない。

校門を抜け呼吸を整えていると、後ろから回転の早い足音が聞こえてきた。

修司が追いかけてきたのかと振り返れば、全く知らない男子生徒だった。

あの人も急いでいるんだなあ、なんて軽い考えをしているのも束の間、こちらへ駆け寄り右の拳で私の頬を思いっきり殴ってきた。急な展開に地面へ倒れ込む。

その反動で視界が揺れ、頭がフワリと浮遊するような感覚に襲われた。

更に男子生徒は私の腹部へまたがり馬乗りの態勢で何度も拳を頬へぶつけてきた。

持っているカバンで抵抗しようとするが、全く力が入らない。

頬骨と拳がぶつかり合うと肌が刷り切れたように血がにじみ出す。

そこで手を止めた。

血でにじむ頬に顔を近づけ、鼻を鳴らしながら匂いを嗅いできたのだ。

「んはぁ、はぁ、いい匂いだなぁお前」荒い呼吸が真横で聞こえ体全体に寒気が走る。
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