【ほのB】人間の本質は愛なんじゃないかな?

親戚連中の噂話から、お袋は若い頃、水商売をやっていたと聞いた。

店の看板娘だった彼女に親父が惚れ込んで、足しげく通って、とうとう妻にしたのだとか……

ま、確かに、そんな女をあの堅物の爺さんがあっさり許す筈もないか。
きっと、幾多の障害を乗り越えて、二人の今があるのだろう。

二人の仲の良さも頷ける。

「美佐緒は今日は座ってろ。

なぁに、もう粗方仕込みは済ませてあるんだ。
今晩は散らし寿司と鯛の刺身だ。
美佐緒の好きなゴマ豆腐に湯葉刺しも用意してあるからな」

「あら、まあ、誠一郎さんたら」

ねじり鉢巻を頭に締めて、厨房に消えた親父の後姿を見届けると、

「じゃ、わたし達は、あちらで久ぶりに指しでお話でもしましょうか」

とお袋が妖艶に微笑んだ。
< 37 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop