【ほのB】人間の本質は愛なんじゃないかな?
親戚連中の噂話から、お袋は若い頃、水商売をやっていたと聞いた。
店の看板娘だった彼女に親父が惚れ込んで、足しげく通って、とうとう妻にしたのだとか……
ま、確かに、そんな女をあの堅物の爺さんがあっさり許す筈もないか。
きっと、幾多の障害を乗り越えて、二人の今があるのだろう。
二人の仲の良さも頷ける。
「美佐緒は今日は座ってろ。
なぁに、もう粗方仕込みは済ませてあるんだ。
今晩は散らし寿司と鯛の刺身だ。
美佐緒の好きなゴマ豆腐に湯葉刺しも用意してあるからな」
「あら、まあ、誠一郎さんたら」
ねじり鉢巻を頭に締めて、厨房に消えた親父の後姿を見届けると、
「じゃ、わたし達は、あちらで久ぶりに指しでお話でもしましょうか」
とお袋が妖艶に微笑んだ。