【ほのB】人間の本質は愛なんじゃないかな?
「正直、あのおぞましい体験のことはもう忘れたい。
今日私がここに来たのは、自分の犯した過ちにけじめをつける為だ。
君には悪いが、もう私のことは忘れて欲しい。
この二十年、自分の産んだ君の影に怯えてきた。
自分の中に違う命を育むという感覚が、あんなにおぞましいものだとは……
産み落とした途端、泣き出した君を見て怖くなった。
だが、成長した君を見て、少し安心したよ。
私が作ったのは、やはり人間だったのだとわかってね。
わたしは自分以外を愛せない人間なのだ。
悪いがね」
美しく整った麗さんの口から出たのは、恐ろしく冷たい決別宣言だった。
「全く、あんたは何を食べて生きてるのかしら?
何を食べたら、そんなに冷たくなれるのかしらね」
「相変わらず、何を食べても美味しくはないな。
しかたあるまい。
私は所詮、女にも男にもなれない欠陥人間なのだ」
毒々しいやり取りに、俺は口を挟むことさえできない。