穢れなき獣の涙

*直面した現実


 ──会食も終わり、松明(たいまつ)の灯された野外でシレアは遠い暗闇をぼんやりと眺めていた。

 虫の声に混じり時折、獣の遠吠えが夜空に響き渡る。

 ふと、アレサの後ろ姿に目が留まる。

 見るからに、出会ったときの武装を解いていない。

 細身のエルフに相応しい薄手の手甲(てっこう)とブレストプレートは、彼がそれなりの腕を持つことを示すように着こなしている。

 あのときも、狩りをしていたら雨に降られ、同じく雨宿りした森でシレアたちを見つけて失礼だとは思いながらも攻撃的な態度をとったと言っていた。

 混沌としていた時代なら、種族間の争いで手練れもいただろう。

 しかし今の時代、エルフの高い戦闘能力は狩りで活かされる。

「夜警か」

「うむ」

 この地も平穏という訳にはいかないらしい。

 ときには危険な獣が平原を駆け回り、人を襲う夜行性のモンスターも徘徊している。
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