穢れなき獣の涙

 ──シレアが外に出ると、昨夜倒したゴブリンの死体を集めている最中だった。

 さすがの光景に眉間のしわが深く刻まれる。

 かといって、このままにしておけるはずもない。

 エルフたちの顔にも珍しく、嫌そうな感情が見て取れた。

 集めた死体を荷馬車で運び、遠くの平原に捨てに行く。

 それは獣たちの腹を充分に満たすだろう。

 その様子を見やり、山積みの死体を眺めているアレサの隣に立つ。

「昨日はすまなかった。まさか、客人が来ている時にこんなことになるとは」

「構わない」

 言って、周囲を見渡す。

「すさまじい光景じゃな」

 渋い顔をしながらユラウスが歩いてきた。

「突然、何が起こったというのか」

 眼前の死体にアレサは顔をしかめる。

 大戦のときならば納得もいくが何故、今更に?

 しかし、この数では残ったゴブリンは多くはないだろう。

 もう攻めてくることはないと思いたい。

 こちらにも被害がなかった訳ではないのだから。
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