穢れなき獣の涙
「わたしは父の血と母の血に誇りを持っている。恥ずべきものなどない」

 その強い意志は、彼の表情からも見て取れる。

 両親の血に敬意を抱き、揺るぎのない誇りに誰をも彼を貶(さげす)むことなど出来はしない。

 エルフと人間の混血であるアレサの、戦士としての能力は誰にも引けを取らない。

 だからこそ彼は、この集落で戦士たちを束ねる隊長たり得るのだ。

「私と来ないか」

「なに?」

 突然の言葉にアレサは目を丸くした。

「大気が揺らいでいることに、気がついているだろう」

「わたしの気のせいだとばかり」

 まさか気付いていた者がいたのかとシレアを見つめる。

「我らは、その中に飛び込む者じゃよ」

「なんだって?」

 突然の告白に、どういうことなのかと二人をいぶかしげに見やる。

 しかし、その真剣な眼差しに偽りはないようだった。
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