穢れなき獣の涙
「彼の先詠みでは、私がそれに深く関わっているらしい」

「先ほど見えたヴィジョンは、おぬしの姿じゃった。やはり、冷たい炎に呑まれて苦しむ姿ではあったが」

「敵は、私の仲間と成りうる者をことごとく滅しようとしている」

「つまりあれは、わたしを狙ったものだというのか」

 シレアの言葉が昨夜のゴブリン襲来と結びつく。

「未だ見えない脅威は、わしの少し先を詠(よ)んでおる」

 にわかには信じられず、アレサは視線を泳がせた。

 彼らの言葉は本当なのか、嘘ではないのか。

 その真意は見えないものの、いま考えれば昨夜のゴブリンには、何か巨大な意志があったようにも感じられた。

 肌を刺すような鋭い感情がゴブリンの背後から放たれていて、それが否応なく奴らを争いへと掻き立てていたようにも思える。
< 113 / 464 >

この作品をシェア

pagetop