穢れなき獣の涙
 誰も責めたくて責めている訳じゃない。

 自分たちとは違うものを恐れる事は、当り前のことなのだ。

 もちろん、それが良い事とは言えない。

 それでも、彼らを憎む事は自身を不幸にするだけだ。

 己の幸せは、他人を憎む事で成し得ることなど出来はしないのだから。

 母は、集落全ての者に冷たくされていた訳じゃない。

 彼女の心の強さを認め、仲間たちと同じように接していた者も少なからず存在した。

 アレサはそんな母を尊敬し、大切な人を護るためにと己を鍛えた。

 年月は流れ母が寿命を迎えたとき、父は再び旅に出るとアレサに打ち明け

「いつか迎えに来る」と言い残して集落をあとにした。

 強くなった我が子を確認しての決心だろう。

 父にとって、命の危険を覚悟してまでの魅力がこの世界にはあるのだ。
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