穢れなき獣の涙
*焦げ味スープ
シレアはカルクカンを厩(うまや)に預け、双子に案内された宿屋の前で建物を眺める。
頭上に下げられた木製の看板には、宿という文字と絵が描かれている。
古いもののようで、雨ざらしで色あせた様子から年期が感じられた。
「カナン~。お客さんつれてきたよー!」
「カナンのおむこさん候補だよ~!」
「婿?」
一体なんの事を言っているのかとシレアは眉を寄せた。
「ちょっと!? なに言ってるのよ!」
双子たちの声に、奥の方から慌てて女性が飛び出してきた。
彼女たちの姉だろうか、顔を真っ赤にして双子を追いかける。
「やめろ」
シレアは、やはり起伏のない声で後ろに隠れた双子に発する。
カナンと呼ばれた二十代に入ったばかりだと思われる女性は、そうだお客さんだと我に返った。