穢れなき獣の涙
 何故だろう──今までいた場所なのに、それが酷く遠く感じた。

 今、こうして旅に出る事が自分にとっては、とても自然で決して成り行きだけの旅立ちではないのだと実感させられる。

 引きずる想いはすぐに消え、先の見えない道程に心は微かに高鳴った。

「次はどこに行くのじゃ」

 馬の足を緩めて尋ねる。

 このまま北に行っても残るのは人間の港町が大小二つあるだけだ。

 どちらも、他の島や大陸との交易が盛んで賑わっている町である。

「そうだな」

 少し考えて、

「北の大陸に渡りたい」

「ギュネシア大陸にか」

 エナスケア大陸の北に位置しているギュネシア大陸に住む種族は、人間やエルフたちとは異なる容姿をしている。

「あの地に行っても、おぬしが何者か知っている者がいるとは思えぬが」
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