穢れなき獣の涙
 ユラウスは記されている町を見やり、眉間のしわを深く刻んだ。

「なんたることか。わしの知っている街がない」

「五百年も前の記憶なら、同じ場所にあるとは限らない」

 アレサは無表情に告げた。

 大きな街ならいざしらず、集落や小さな町はいつモンスターの襲撃に遭ってもおかしくないし、集団で住む場所を変えている可能性がある。

 とはいえ、持っている地図が正しいとも限らない。

「もっとも、お前が知っていたとしても成人二人は運べないぞ」

「うぬぬ」

 この魔法で運べる量は限られている。

 さすがのユラウスでも、成人二人と馬二頭を一度に運べはしない。

 街を知らないシレアとアレサがギュネシアの街に飛ぶ事は不可能だ。

「な、ならばわしが往復すれば──」

 そこではたと気がつく。

「知っている町があるならな」

 そうだったとシレアの言葉に悔しげに唸った。
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