穢れなき獣の涙
「敵の姿がちらとでも見えれば、意識も変わるかもしれぬが」

「そうなると実感どころか、まともに対峙する事になるのではないですか?」

 困惑して見合う二人にシレアは笑みを浮かべる。

「先が解らない状態で何を考えられる」

 そう言われてしまってはどうしようもない。

「とにかく明日はザラルカだ」

 ユラウスが発し、一同は眠りに就いた。





 ──深夜、眠るシレアの夢に黒い影が現れる。

[貴様など、我の前では吹きすさぶ風にまかれる木の葉に等しい]

 青い炎をまとった大きな影が、小さなシレアに手を伸ばす。

「ならば何故、私の行く手を遮ろうとする」

 少しも臆さず応える青年にその影は、伸ばした手を止める。
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