穢れなき獣の涙
「お前が何者で、何を成そうとしているのかすら解らぬ私を何故、恐れる」

[恐れてなどおらぬ]

「それは本心か」

 刹那、黒い影は渦を巻いてシレアを囲み、高らかに笑いながら消えていった。

「──っ!」

 シレアは、あまりの息苦しさに跳ね起きる。

「今のは……」

 額の汗を拭い、暗闇を見つめて溜息を吐く。

 どうやら、自分にだけ向けられたもののようだ。

 ユラウスたちは何事もなく静かな寝息を立てている。

 夢とはいえ、凍えるほどの青い炎は確かに強大な何かを感じさせた。

 シレアは微かに震える手を握り、ユラウスが恐怖していた訳を知る。

 あんなものに立ち向かおうというのだから、我ながら無茶をすると口角を吊り上げた。





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