穢れなき獣の涙
「ちょいと兄さん。お困りのようで」

 どうしたものかと思案していると、背後から声がかかった。

 出っ張った前歯と猫背の小柄な男は、三十代後半と見受けられる。

「なに用か」

 アレサが無表情で問いかけると、少しだが怯えた表情を見せる。

 エルフは感情の起伏があまりなく、そのため威圧的に感じることがあるためだろう。

「おいしい話があるんですがね」

 男は気を取り直してシレアに向き直り、ごますりよろしく本題を切り出した。

「ほう?」

「なに、ダンナなら絶対、大丈夫!」

 危険なことはありやせん。

 本当、信じてください。

「怪しいのう」

「そんな! まっとうな仕事ですって」

 違ったらその場で殺してもいいですぜ。

 そこまで言うのならと、シレアたちはひとまず男の案内に従った。




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