穢れなき獣の涙
 着られる者がいるのならば、すぐにでも着てもらいたいと思えるものであったため、ドレスに合う人物を探すようにと従者のリシャルに頼んでいた。

「つまり、このドレスを着ろと」

 マダムが広げて見せたドレスに眉を寄せた。

 シンプルでいて、ゴージャスなドレスを呆然と眺める。

 赤いドレスには七色のスパングルと、宝石に似せたガラスが散りばめられていた。

「あなたならきっと着こなせるわ!」

 そんな自信たっぷりに言われても。

 マダムはシレアの困惑を意に介さず、メイク担当の女性を呼び寄せる。

「頭はウィッグと羽根飾りで艶(あで)やかに。化粧は濃くなく薄くなく、その瞳を強調するように、気品を損なわず仕上げてちょうだい」

 マダムはてきぱきと指示を出していく。
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