穢れなき獣の涙

 ──そうして客席が賑わい、楽隊が音楽を奏で始める。

 ぶどう酒が振る舞われ、会場の雰囲気は上品さを失うことなく盛り上がっていった。

 酒が振る舞われるのは富裕層だけであるため、アルコールが入っても乱れることなく品評会は続けられる。

「お、始まったようじゃ」

 静かに幕があがり、ユラウスが舞台に目を向けた。

 客席は、わきから登場した進行役であろう男性に注目する。

 男は第一声を待ちわびる観客を見渡し、丁寧に腰を折った。

「紳士淑女の皆様! 今日のこの日にお集まりいただき、誠に恐縮です。さてさて──」

 そんな、長々とした演説まがいの言葉のあとに、ようやくショーが開始された。

 ゆったりとした演奏に合わせて着飾った女性が出たり入ったりしている。

 人間の服装など、さほどこだわらない二人にはあくびの出るものだ。
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