穢れなき獣の涙
 ふと、その女性と目が合い思わず照れ笑いを返すが、当の女性は複雑な表情を見せた。

「あのような美女をわしが知っている訳が──」

 しかしすぐ、

「シレアか!?」

「ようやく気がつきましたか」

 やっと気付いたユラウスに呆れて溜息を漏らす。

 確かに化粧はしているが、よく見れば解りそうなものだ。

「化けたのう」

 舞台袖に去っていく後ろ姿を眺めてつぶやく。

 それから、建物の裏手に回りシレアが出てくるのを待った。

 舞台では品評会の終わりを告げる声が響き、小屋にいる女性たちはドレスを脱いで帰り支度をしていた。

「みんな、お疲れさま! 品評会は大成功よ!」

 マダムの言葉で、そこにいた女性たちは一斉に喜びの声を上げた。




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