穢れなき獣の涙
「追ってきている」

 きな臭い意識が船の遙か後方から感じられる。

 相手の動きがどうも妙だ。先を読んでいるにしては、こちらの後を追ってくる。

 考えられることといえば──

「確信が無いか、まだそこまでの力が無いのか」

 口の中でつぶやく。

 ユラウスのように先が見えているからといって、一人の人間に何が出来るのかと考えているのかもしれない。

 己に何かを変える力など持ち合わせているとは到底、思えない。

 ユラウスでさえ、久しく見なかった「先詠み」を信じ切っている訳ではないだろう。

 先読みの中には、重要とは呼べないものも含まれることがあると言っていた。

 その能力は、確実なものではないということだ。

 相手の力がどれほどのものか見当も付かないが直接、叩けない理由があるのかもしれない。
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