穢れなき獣の涙
*ドルドラム
──航海は何事もなく四日目が過ぎようとしていた。
あれだけ船酔いに悩まされていたユラウスも慣れてきたらしい、今では船室で食事を取れるまでになっている。
昼食を終えた頃、シレアがふと気がつく。
「止まった」
「なに?」
「確かに、止まったようですね」
船長が言っていた無風帯(ドルドラム)に入ったのだろうか。
まるで陸にでもあがったかのように、ぴくりとも動かない。
甲板に出てみると、船員だけでなく船客たちも空や海を見渡していた。
「ネドリー」
「おお、ドルドラムだ」
呼んだシレアに応えて肩をすくませる。
「本当に無風なのじゃな」
「こうなっちゃあ、お手上げさ。潮の流れを利用して進むしかない」
まったくたなびく気配のない帆を厭(いと)わしげに見やる。