穢れなき獣の涙
 ひと昔前までは、この一帯に近づくと手こぎで進んでいたが、今はそれだけの人員を集めるのは難しい。

 ネドリーは「軟弱者どもめ」と口の中でつぶやきながらも、給料のこともあり経済的にも苦しいというのも理由の一つではあった。

 大陸から大陸への航海は危険度も高く、それに見合うだけの実入りの良い仕事とは言えない。

 それでも続けているのは海の男としての意地なのか、渡りたいという人間のためなのか。

 いずれにしろ、ネドリーのような人間がいてくれるのは有り難い。

「この状態はどれくらい続くのです」

「さあな。三日か四日、それ以上か」

「いつもなのですか?」

「必ずあるな」

「これを含めて十日?」

「こいつは計算に入れてねえ」

 一同は絶句した。
< 159 / 464 >

この作品をシェア

pagetop