穢れなき獣の涙
「え?」

「文字の読み書きが出来ない者もいる」

「あ!? わたしったら」

 そういえば「言うから書いてくれ」といった人がよくいたと思い出し、あれはそういうことだったのかとみるみる顔が青ざめていく。

 全ての者が文字を学べるとは限らない──家庭の事情や環境、住んでいる場所、貧しい者には学びの機会はなかなか得られない。

 放浪者(アウトロー)と呼ばれる者たちは、文字の書けない者も少なくはない。

 必然的に文字を学ぶ職業なら別だが、戦士はその腕だけで大陸を渡り歩く。

 この世界では、文学に触れる事の出来る者はそう多くはない。

 カナンは生活には困らない程度の読み書きが出来るため、それをすっかり忘れていた。

 ある意味、恵まれている。

 シレアは運良く読み書きを学べる場を得られたというだけで、そうでなければ魔法も覚えられなかっただろう。
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