穢れなき獣の涙

 ──ユラウスは前のマストに、アレサは後ろのマスト、そしてシレアは真ん中のマストに位置し、船客のウィザードは前と真ん中に二人、後ろに一人が配置についた。

 そうして、誰からともなく詠唱が始まる。

 静かな船上に重々しくも凛とした言葉のつらなりが、まるで輪唱のように響き渡る。

 始まりと同じく、静かな終わりで詠唱が止んだとき、渦を巻いたエネルギーの塊(かたまり)が幾つも現れた。

「ひゃ!? こいつは!?」

 ネドリーは思わず声を上げる。

 人の背丈よりも大きなつむじ風を思わせる塊が八つ、消えることもなくそこに留まっていた。

「エアエレメンタルじゃよ」

「これが……。初めて見るぜ」

 足は無く、人のような形にも見える荒々しいつむじ風は確かな存在感をまとい、召喚者の命令を待つように空中にじっと佇んでいた。





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