穢れなき獣の涙
 小さなものならば簡単と言っても構わないだろう。

 しかし、その効果が大きければ大きいほど術者の負担は増大し、それは時として己に返ってくる。

 戦士が使いこなせない武器を扱うのと同じで、いき過ぎた力は身を滅ぼすことになる。

「無風帯はあとどれくらいだ」

 傾きかけたオレンジ色の太陽に目を細め船長に問いかける。

「まだまだ続くぜ」

 ネドリーの笑みにシレアは肩をすくめた。

「打開策はあるんだがね」

「ほう」

 どうして今まで黙っていたのかと言いたい気分ではあるが、それだけの理由がありそうだ。

「今日は疲れたろう。ゆっくり寝ろ」

 労うようにシレアの肩を軽く叩き、船長室に続く扉を開いた。






< 165 / 464 >

この作品をシェア

pagetop