穢れなき獣の涙
 因みに、エナスケアとギュネシアに挟まれた海域はサジステナル海と呼ばれている。

 そのなかでも、大陸と大陸の間の中央付近を流れる激しい海流はCrazy hog(クレイジーホッグ)と船乗りのあいだでは呼ばれていた。

「お出ましだ」

 船長の声に身を乗り出すと、海面にいくつか得体の知れない生き物の頭が浮いていた。

 シレアは初めて見るその姿に口元をほころばせる。

 海から飛び出している顔はどれも美しく、色とりどりの貝殻で作られた髪飾りが彼女たちの艶(あで)やかさを嫌味なく表していた。

「マーマンか」

「マーメイドって言えよ。相手は女性だぞ」

 海を統べる種族──人魚はさほど強い種族では無いが、人間と同じように武器を持ち魔法を使える。

 上半身は人間とあまり変わらない。

 しかし、彼らの首にはエラがあり、両手指の間に水かきを持ち眼球には白目がない。
< 167 / 464 >

この作品をシェア

pagetop