穢れなき獣の涙
「そこで、だ」

 ネドリーは鼻を鳴らし、シレアに向き直る。

 当たってほしくもない予感ほど当たるものだなと、ネドリーと目を合わせた。

「言いたいことは、大体わかってるよな」

「素直に乗せたのはそういう理由か」

 船代をふっかけてくる気配が少しもなかったことが不思議ではあったけれど、なるほど。

「まさか自覚が無いとか言うなよ」

 もちろん無い訳ではない。

 周りの反応に否が応でも自覚させられる。

 彼はナルシストになる気などありはしないし、むしろ自分の容姿に興味など無い。

「いつもはどうしていた」

「あーその、なんだな」

 言い出しにくそうに目を泳がせる。

「ジャンケンで負けた奴がな」

 彼女たちは、とりあえず報酬としての口づけが欲しいだけのようだ。

 まごついていても先には進めない。

 シレアは仕方が無いと肩をすくめて船の縁(へり)に乗った。
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