穢れなき獣の涙
──船は順調に進み、昼近くになって部屋のドアが叩かれる。
「うおーい。飯だ」
ガタイの良い男が木製のトレイに乗せた食べ物を差し出した。
思えば、食事が出る渡航船は珍しい。
基本的に自費で持ち込まなければならないのだが、ネドリーという男は存外に親切だ。
「おお、待っとったぞ」
「カッチカチのパンをか?」
「スープは美味い」
「まあな。コックだけは自慢だぜ」
バケットとスープを受け取ろうとユラウスが手を伸ばしたとき、船がガクンと大きく揺れた。
「なんじゃ?」
「何かがぶつかったような衝撃ですね」
「じゃあ何かがぶつかったんだろう」
しれっと応えた青年に目を丸くして二人は互いに見合い、急ぐように甲板に向かう。