穢れなき獣の涙
「一体、なにがあっ──なんじゃこりゃ!?」
視界に飛び込んできた光景に、ユラウスは思わず声をあげた。
それは伸縮性に富み、甲板の上と言わず、あちこちから船員や客たちに攻撃をかけていた。
それはあたかも、爬虫類の舌のように自在に動き、そこには丸い何かがずらりと付いている。
「蛸(たこ)? いや、烏賊(イカ)か!?」
「クラーケンだな」
「海の魔物じゃとう!?」
ぬめった巨大な腕と触腕がびったんびったんと船を叩き、ギシギシと船体を締め付ける。
並んだ吸盤にはびっしりと鋭い歯が生えていて、それを見ただけで震えが来た。
船員たちは、なんとか船を守ろうと剣を手に応戦するものの、虫ピンほどのダメージもないように思える。
「おい! こいつをなんとかしてくれ!」
アレサたちを見つけた船長は悲痛に叫ぶ。