穢れなき獣の涙
「これはどういうことです」

 アレサは弓を手に船長の背後に回る。矢を解き放つも、巨大な腕に穿(うが)たれるダメージはさして感じられなかった。

「どうやら、相当シレアを気に入ったらしい」

「どういう意味じゃ!」

 上級魔法では一つ放つのに時間がかかりすぎると、ユラウスは中級魔法を繰り返す攻撃に張り替えた。

「この船を沈めて、あいつを連れていくつもりだ」

「なんじゃと!?」

 言われてみれば、怪物の腕は確かにシレアを執拗に狙っているようにも見える。

 強靱な腕とはいえ、こちらの攻撃がまったく効いていない訳でもないらしい。

 シレアに絡みつこうとしながらも、剣の前に躊躇いがちに蠢(うごめ)いていた。

「まったく。あんたたちの連れはなんてぇ厄介なことをしてくれるんだ」
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