穢れなき獣の涙
 荷物を床に置き、シレアは二人に銅のコインを一枚ずつ手渡した。

「わーい、おこづかい!」

 喜ぶ二人を一瞥し、とりあえず軽くなりたくて旅の装備を外していく。

「何を見ている」

 ふと、ドアの隙間からじっと見つめる双子に怪訝な表情を浮かべた。

「ホントに男の人かと思って」

「確かめるか?」

 シレアは無表情に胸ぐらを掴んでぐいとはだけてみる。

「キャー! ヘンタイ!」

「へんたいー!」

 楽しそうにはしゃいで階下に降りていく双子を見送り、シレアは扉を閉めた。

 彼は「女と見まごう容姿」という訳ではないが、中性的な面持ちをしている。

 細身ではあるものの、流れ戦士であり放浪者(アウトロー)だ、そこらの男よりはしっかりした体つきをしている。

 外見だけは、儚くもか弱い人間に見えているのかもしれない。

 しかし、彼は旅人らしく歩んできたものをその体に傷として刻んできた。

 旅を始めて五年以上が経過している。

 そのなかに、決して楽な道程はなかった。
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