穢れなき獣の涙
 少しきつめの香草が使われているらしく、独特の香りに眉を寄せた。

 考えてみれば、内地の集落にある草原のエルフは魚をあまり食べたことがない。

 ましてや、ただ塩や香草をまぶして焼いただけのものを目の前に置かれてどうすればいいのか。

 他のエルフに比べれば獣を食べることがあるぶん、こういうものにはすぐに順応出来るのだと思っていた。のだが──

 戸惑っていると、二人はさして気にする風でもなく料理に手を伸ばしていた。

「あななたちは平気なのか」

「森での生活が長かったのでな」

「美味いぞ」

 フォークとナイフで綺麗に切り分けて小皿に盛っていく。

 エナスケアでも人が集まる首都では、郷土料理として出す料理店がある。

 単純な料理だが、それだけに料理人の腕が試される品だ。

「むう」

 魚を睨みつけ、ゆっくりとフォークをたてる。

 鼻を近づけると、マレストの薫りが鼻を突く。
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