穢れなき獣の涙
 しかし、シレアは人間にしては、いささか感情の起伏が薄すぎるようにも思えた。

 シレアは拾われたときから、己の感情をあまり外には出さなかった。

 集落にいた子どもたちは新入りに興味を示しからかうものの、シレアはそれにまったく反応を見せなかった。

 あまりの反応の薄さに違和感と畏怖の念を覚えた子どもたちは、いつしかシレアを敬遠するようになっていた。

 彼を拾った長老は気が気ではない日々を過ごしたことだろう。

 見下ろす不安げな顔を思い出し、喉の奥から笑みをこぼした。

 長老には申し訳なく思う。

 けれども、私は意地を張っていた訳でも、何かに怒っていた訳でもなかった。

 そんなことを考えていると、ぴりりとした感情がシレアの肌を刺し、黒い気配がゆうるりと心に触れてきた。
< 201 / 464 >

この作品をシェア

pagetop