穢れなき獣の涙
 そのため、彼らに墓はない。

 その代わり、家族や大切な者を護るために死者の魂の一部が入り込むとされる人形が軒先(のきさき)に吊される。

 そういったことから、人形が吊されている家には不幸があったのだと解る。

「止まれイ!」

 集落を突っ切るように歩いていた三人の馬の前に、一人のリザードマンが立ちふさがった。

「貴殿たちは、いかようでココに来た」

 戦士だろうか片手には槍を持ち、オレンジの瞳は勇ましい。

 肌には微かな凹凸があり、その色は艶のない青みがかった緑色をしている。

 ソーズワースの肌よりもやや濃いめの緑だ。

「旅の途中だ」

「名はなんとイう」

「わしはユラウス」

「わたしはマシアスの息子にしてアザレアの子、アレサ」

「シレア」

 ぶっきらぼうだが険(けん)のない物言いでさらりと名乗った人間に、リザードマンは少し驚いた。
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