穢れなき獣の涙
「彼は雄じゃな」

 耳打ちするユラウスに、シレアは若干の睨みを利かせた。

 案内された先は長老の家のようで、他の建物と違い一際(ひときわ)大きく、柱には威厳のある彫刻が施されていた。

「何かあるのですかな?」

「こちらの所用ダ。気にナされるな」

 ユラウスが問いかけると、彼はそう言って扉を叩く。

 彼が気づいたように、集落は少し慌ただしかった。

「客人をお連れしましタ」

 ドアを開き、中にいた人物に会釈する。

「うむ。入られヨ」

 少し、しわがれた声のリザードマンが白い髭をなでながら三人を一瞥していく。

 中心に暖炉が置かれ、その周りに敷かれている毛皮に一同は腰を落とす。

 壁には見事なタペストリーが飾られ、集落が長く続いている事を示していた。

 少々、室内が暑いようにも思われるが人間と変わりない生活のようだ。
< 210 / 464 >

この作品をシェア

pagetop