穢れなき獣の涙
「種族間の対立だよ」

 シレアは、過去の凄惨な出来事を聞き知った限りで思い起こす。

 百年以上の昔──リザードマンとガビアリアンは大きな戦争を起こした。

 もちろん、遙か昔には人間とも対立していた訳だが、数十年前までこの二種族は小競り合いを繰り返していた。

 ガビアリアンの容姿は攻撃的で、まさにガビアル──顔の細いワニといった面持ちの種族だ。

 リザードマンよりも好戦的な性格をしており、事あるごとにガビアリアンから戦いを仕掛けられていた。

 社会というものを形成していなかった時代には、彼らはリザードマンを捕らえて食料にしていたとも言われる。

 しかし数十年前に広範囲で大干ばつが起こり、それを機に休戦協定が結ばれ今に至るという訳である。

 村はここ最近、そのガビアリアンの姿をよく見かけるようになり、見回りを増やして警戒していた。

 リザードマンは人間やエルフよりも強靱な肉体ではあるけれど、ガビアリアンの硬い鱗状の肌には及ばず、武器の扱いも彼らほど上手くはない。
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