穢れなき獣の涙

*躊躇いと決意


 ──地域によって体格や体毛などが異なるのは解るが、これはでかすぎる。

 以前にユラウスと共に闘ったバシラオの二回りは優に越えている。

 初めて見る大きさに、シレアはどうしたものかと思案した。

 そんなシレアの背後から詠唱の声が聞こえ、その詠唱が終わると体が少し軽くなったように感じた。

「彼は補助魔法が使えるのか」

「そうダ。それで奴を追い払うことガ出来タ」

 その言葉の通り、眼前のバシラオは今までのものとは違う。

 本来なら、相手が一匹なら補助魔法さえあれば難なく倒せただろう。

 しかしこれは──

 思案している間に、補助魔法は幾重にもかけられていった。

 いくら補助とはいえ、ここまで連続して唱えられる者はそう多くはない。

 少なくとも、四つの補助魔法が二人にかけられている。

 全体的な能力が著しく向上し、自分の周囲に見えない膜のようなものが張られている。

 これなら、ある程度の衝撃から何度か身を守ってくれるだろう。
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