穢れなき獣の涙
「脚を狙え!」

「うヌっ」

 両側から獣の脚に剣の刃を当て、今度は強く一線を走らせる。

 固い皮を切り裂き、バシラオは一帯に響き渡るほどの叫びを上げて、その巨体をズシンと地面に横たえた。

 それでも猛々しく唸り続けていたが、しばらくして瞳から光が消え失せる。

 抵抗する力はもう残されていないと感じたシレアは、獣に歩み寄った。

「願わくば、此岸(しがん)の輪に再び巡ることを」

 額に手を添え、何も映さなくなった瞳を瞼に隠す。

「終わったの?」

「シレア!」

 聞き慣れた声に振り向く。

 どうやらユラウスとアレサだけのようだ。

 リザードマンはいないことを知るとヤオーツェはほっと安堵した。

「うお!? なんじゃこりゃ!? バシラオか? これはまた巨大な」
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