穢れなき獣の涙
「シレア」

「ん?」

「あ、あの魔法、すごかったよ!」

 目を輝かせて発したヤオーツェにシレアは小さく微笑んだ。

 遠ざかっていく三人の後ろ姿が育ててくれた放浪者(アウトロー)と重なって、込み上がる感情をぐっとこらえた。

「行っても良イのだぞ」

「えっ!?」

 ふいにかけられた言葉に振り返ると、ケジャナルとリュオシャルが並んで見下ろしていた。

 それはまるで昔からの仲良しのように、それが当然であるかのように違和感もなく並んでいた。

「な、なに言ってるんだよ。オイラは──」

「お前はアウトローに育テられタ。五歳までだっタとはイえ、そレが今のお前を作り出しタ」

 リザードマンの成長は人間と比べると数年ほど速い。

 青年期が長く、老年期は短い。

 ヤオーツェの人格を固めるには、充分な年月だったろう。

「お前の目は、イつも外に向けらレてイた」

 知っていたのだ。

 知っていて、知らないふりをしていた。
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