穢れなき獣の涙
「リュオシャル」

 覚えているのは大きな手──いつも頭をなでてくれたゴツゴツした手だった。

 とーちゃんも、かーちゃんも、綺麗な服は着ていなかったけど、笑顔は綺麗だった。

 彼らと会うことは二度とないだろう。

 もし会えたなら、ありがとうと伝えたい。

「本当なラ、人間を憎んでもおカしくはなイというのに」

「そんなの、無理だよ」

 ヤオーツェが生まれた集落がどこかは解らない。

 まだ赤子だったとき、人間によって連れ去られた。

 見世物小屋に売られ、そこで見世物にされていた。

 それを見た放浪者(アウトロー)の夫婦がヤオーツェを買い取り、そこから救い出してくれたのだ。

 ヤオーツェを連れて旅を続けていたアウトローだったが、彼らが旅をしていた理由はヤオーツェをリザードマンたちの元に戻すことだった。

 歳を取っていた彼らは、ヤオーツェをリザードマンたちの元に帰したあと、どこかに腰を下ろすと言って去って行った。
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