穢れなき獣の涙
「空中に存在しているからこそ、ウェサシスカは太古から常に中立に位置してきた」

 天蓋(てんがい)のない馬車を選び、目的地に向かう道すがらセルナクスは誇らしげに語った。

「近くで見ると本当にでっかい木だな~」

「これは学識の木と呼ばれておる」

 城を覆うように立つ巨大な木は樹齢、数万年と言われているほど、角度によっては城がまるまる隠れてしまうほど高く大きい。

 門をくぐってしばらく進むと、城を背に丸い噴水が見えてくる。

 ロータリーになっており、大きな城の重厚な扉の前に馬車は止まった。

 こうして城を目の前にすると、その荘厳なまでの建造物を見上げて思わず口が開く。

 屋根や壁は積み重ねられた年月を語るように薄汚れているが、それが返って城の価値を高めているようにも感じられた。

 開かれた扉の両側に槍を持ったリャシュカ族の衛兵が立ち、シレアたちを一瞥してセルナクスに目配せをする。
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