穢れなき獣の涙
「粗相(そそう)の無きように」

 セルナクスは神妙に発し、赤と青で彩られた金箔の扉を重々しく押し開く。

「ワオ! すげえ~」

 ヤオーツェが口笛を鳴らすと、セルナクスは戒めるように睨みを利かせた。

 壁一面に収められている書物は、ウェサシスカで最も貴重なものなのだろう。

 禁書もあるのだろうか、鎖で厳重に保管されている書物もある。

「なんと素晴らしい」

「評議会の会議室としても使用される場所だ」

 無表情に口を開いたエルフに応える。

 ウェサシスカの全てを担う機関、「評議会」──齢(よわい)を重ねたリャシュカ族の数十人からなり、最終的な決定権は評議長である、現在はレイノムスが勤めている。

 部屋の中央には五角形のテーブルと上座には一際、豪華な椅子が設置され、そこに一人のリャシュカ族が腰掛けていた。

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