穢れなき獣の涙
 人間などさして珍しくもないと思われるが、ここウェサシスカにおいてはそうでもない。

 人間はこの大陸では知能は低めと考えられ、下級に見られている。

 現に、人間はウェサシスカにほとんどいない。

 最も新しい種族である人間は最も短い年月で大きな繁栄を続けているものの、やはり種族としては未成熟だとされている。

 水色の瞳に好奇心を隠すこともなく、シレアに近づく。

 身長差は頭ひとつぶんくらいはあるだろうか、鷹を思わせる翼にブラウンの斑点が白地に映えていた。

「男、だよな?」

「そうだ」

 それほど女らしくもないだろうにと思いつつ答える。

「なんかやらかした?」

 その言葉にシレアは周囲を見回し、なんとなく理解した。

 案内された宿は普通のどこにでもある造りではある。

 しかし、この一角だけ衛兵をよく見かけるし、高くはないレンガの塀が断続的に取り囲み判然(はんぜん)たる疎外感や閉塞感を与えている。
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